アガメムノン

【好色で残忍なミュケナイの王】




トロイア戦争でギリシャ軍総大将を務めたミュケナイの王。
ヘレネの夫メネラオスの兄であり、妻が連れ去られたことに気づいたメネラオスがアガメムノンにトロイア攻撃を依頼したことが戦争のきっかけとなった。
彼は「ヘレネの夫に何かがあればかつての求婚者全員が助ける」という誓いを盾に、ヘレネの元求婚者たちに参戦を促す。
そして1000隻を超える船を用意し、多くの勇者を乗せてトロイアへ向かった。
そして、ヘレネ返還に応じないトロイアの態度に怒ったアガメムノンは、とうとう一斉攻撃を開始する。



神々と英雄たちによる戦争は10年間も続いた。
ある戦いで、アガメムノンはアポロン神殿に仕える神官の娘クリュセイスを捕虜として手に入れる。
この無礼に怒ったアポロンはギリシャ陣営に疫病を流行らせた。
アガメムノンが渋々クリュセイスを返還したことで疫病は収まったものの、懲りないアガメムノンは続いて英雄アキレウスの捕虜であるブリセイスという女性を半ば無理やり手に入れてしまう。
この横暴にアキレウスは激怒し戦争をボイコット。
ギリシャ最強と謳われた彼の離脱で戦況は一気にトロイアに傾くことになる。
しかしアガメムノンはこのピンチもなんとか切り抜け、最後はオデュッセウスの知恵で勝利を手に入れた。
好色なアガメムノンはパリスの妹カッサンドラを捕虜にして、意気揚々とミュケナイへ引きあげたのである。
ミュケナイではアガメムノンの妻クリュタイムネストラが夫の帰りを待っていた。
しかし、彼女もアガメムノンの好色によって運命を狂わされた女性であり、夫の残忍な仕打ちに復讐を企てていたのだ。
クリュタイムネストラは、不倫関係となっていたアガメムノンの従兄弟に夫殺しを依頼。
アガメムノンは、妻の不倫相手の手にかかり殺されるという末路をたどった。





哺乳類の大進化は古代ウイルスのおかげ?










【宿主の増殖システムを乗っ取る】
ウイルスは人間などの生物に感染し、その生物に頼って生き延びる。
だが人間もまた、ウイルスの力を借りて生きているらしい。
インフルエンザウイルス、ジカ熱ウイルス、エボラウイルスなど多種多様なウイルスが生物の病原体になる。
ウイルスは自分の遺伝子「DNAやRNA」とそれを包むたんぱく質しかもたないので、自分では増殖できない。
そこで彼らは他に生物に感染し、その生物「宿主」の細胞の増殖システムを乗っ取って増える。
ところが、乗っ取る過程で宿主の細胞に入り込んだウイルスがそのまま細胞内に残ってしまうことがある。
もしそれが精子や卵子のような生殖細胞であった場合、ウイルスはそのまま宿主の親から子へと引き継がれてしまう。
恐竜が地球上を支配していた時代、原始的な哺乳類でそのような出来事が起こったらしい。
カモノハシの仲間「単孔類」が他の哺乳類と分岐した1億7000万年前頃、古代のあるウイルスが哺乳類の仲間に定着した。
これは哺乳類にとりきわめて重大な出来事だった。
彼らはこのウイルスを遺伝子として利用して胎盤をつくり出すようになったのだ。







【胎児が母親の免疫に攻撃されない理由】
胎盤は母親とその胎児の間で栄養や老廃物を交換する器官である。
カモノハシは卵を産むが、その他の哺乳類は胎盤をもち、子宮内で胎児を育てる。
母親にとって胎児は、自分の子ではあっても他者「父親」の遺伝子をもつ自己とは異なる存在である。
そのため母親の免疫は胎児を攻撃する可能性がある。
だが哺乳類はウイルスを利用することでこの問題を回避したという。
胎児が胎盤へと自分の細かい血管を伸ばしている部分「絨毛」は薄い膜に覆われている。
この膜は無数の細胞が合体して生成したもので、母親の免疫細胞も通り抜けることができない。
この合体を可能にしたのがシンシチンというたんぱく質である。
そしてシンシチンの遺伝子は、ウイルスが哺乳類に運び込んだものと見られているのだ。
哺乳類では、シンシチン以外にも胎盤の形成に関係するウイルス由来の遺伝子がいくつも見つかっている。






それだけではない。
陸上で生活する哺乳類の皮膚が適度に水分を保つための遺伝子も、また哺乳類のすぐれた記憶や認識機能に関する遺伝子の一部も、ウイルスから得た可能性があるという。
人間のゲノム「DNAがもつ人間の全遺伝情報」の10%をウイルス由来のDNAが占めているのだ。
生物のゲノムにはほかにもウイルスによく似た性質をもつものが存在する。
それは「跳躍遺伝子・トランスポゾン。転移因子」と呼ばれ、DNAのある場所から別の場所へと「飛び移る」ことができる「もっともトランスポゾンの多くはいまでは移動することができない」。
これによって移動先の遺伝子のはたらきが抑えられたり、新たなはたらきが付け加えられたりする。
人間の免疫にもトランスポゾンのしくみが利用されている。
トランスポゾンのすべてがウイルス起源ではないかもしれないが、すでにわかっているもの以外にもウイルス起源を疑わせるトランスポゾンが少なくない。
トランスポゾンが人間のゲノムに占める領域は40%以上とされている。
進化は小さな変化の積み重ねによって起こる、これまでの主流の進化論はこう主張してきた。
だが進化はもっとダイナミックに、ウイルスから新しい遺伝子を導入したりDNAが組み換わることによって起こったのかもしれない。
その全体像は見え始めたばかりである。





夢の理論

ドイツの化学者ケクレは、うたたね中にヘビが自分の尾にかみついている夢を見た。
彼はそのヘビの格好から、化学分子ベンゼンの構造が輪の形「円環構造」あることを見いだした。
またイタリアの作曲家タルティーニは、夢の中で悪魔が弾いた曲の断片を覚えていて「悪魔のトリル」という曲をつくった。
同様に、夢からインスピレーションを得て描かれた絵画や小説は珍しくない。









実際、古代から多くの人々が夢に特別な意味を見いだしてきた。
19世紀末には、ドイツの心理学者ジークムント・フロイトが「夢は無意識の願望や不安の現れで、とりわけ幼児期に経験した性的抑圧が夢の中にメッセージとして隠されている」と主張した。
夢に現れる塔や棒はペニス「男性器」をまた水がめや箱はヴァギナ「女性器」を示しているという。
しかし夢の正体は現代科学をもってしても十分に理解できたとはいえない。
夢は知覚や感情と同じように主観的で、しかもすぐに忘れられてしまうからだ。
しかしそれでも研究は進んでいる。
夢はたいていレム「REM」睡眠のときに見るとされている。
レムとは「急速眼球運動」の英語の略で、睡眠中に眼球が忙しく動くことからついた名である。
レム睡眠時には筋肉を動かすスイッチが切れており、そのため突然目が覚めたとき全身が弛緩していわゆる「金縛り」に陥ることもある。
レム睡眠時には体は汗をかいたりふるえたりなどの体温調整もできない。
これは脳の活動の一部が強く抑えられているためだ。





他方、脳の深部からは信号が発せられ、起きているときより強く活性化する部位もある。
情動に関係する大脳辺緑系や、見たものを解釈する部位、運動機能を司る部位などだ。
そこで一部の脳科学者は、レム睡眠は強い情動をともなう経験や、運動の仕方をより強く記憶させると考えている。
このとき脳内を飛び交う信号が大脳皮質でさまざまに解釈され、「しかも理性を司る部位ははたらいていないので」誰でも奇想天外な夢を見ることになるというのである。







量子テレポーテーション








【遠隔操作で装置を壊す物理学者】
ヴォルフガンク・パウリはすぐれた物理学者ではあったが、とても不器用で、実験道具などをよく壊していた。
同僚たちは「パウリが実験室に入ったとたんに実験装置が壊れる」と言い、これを「パウリ効果」とまで呼んだ。
壊れたのは実験装置だけではない。
彼の新婚旅行中には車が原因不明で動かなくなり、アメリカのプリンストン大学を訪ねたときには巨大な粒子加速器「サイクロトロン」が故障した。
あるときにはドイツのゲッティンゲン大学のノーベル物理学者ジェームズ・フランクの研究室で計測機器が停止し、調べても不具合は見つからなかった。
その後フランクのもとにパウリから手紙が届いた。
パウリはその日デンマーク行きの列車に乗っていたが、機器が停止したちょうどその時刻にパウリがゲッティンゲン駅で数分間停車したという。
フランクはパウリ効果で実験機器が止まったと納得した。
もっともこれらはジョークの類で、物理学者たちがそんな遠隔に及ぶ力を信じていたわけではない。
だがまもなくこの「遠隔作用」が実在することを彼らは思い知ることになった。







【失敗したアインシュタインの挑戦】
量子力学によれば、ミクロの粒子は波のような広がりをもつ複数の状態の「重ね合わせ」として存在する。
だが人間がそれを観測すると、その瞬間に重ね合わせは解けてひとつの状態に落ち着く。
たとえば電子には「スピン」という自転のような状態があり、それには時計まわりと反時計まわりがある。
量子力学的には電子はふだん両方の状態を同時にとっている。
つまり2つの状態が「重ね合わせ」の状態にある。
ところがこれを人間が観測すると、時計まわりか反時計まわりのどちらかとしてしか認識できない。
ここに2個の電子A、Bが存在し、全体としてスピンに方向がない「スピン0」とする。
この場合、電子Aのスピンが時計まわりならBのスピンはその逆まわりである「全体として回転がない」。
とすれば、Aの時計まわりのスピンを観測した瞬間、Bも重ね合わせが解けて反時計まわりになるはずだ。
では電子AとBを観測せずに東京とパリのような遠方に引き離したらどうなるか?
東京で観測したAが時計まわりとわかった瞬間にパリのBは反時計まわりに決定することになる。
これは遠隔作用ではないか?
この思考実験を出題された量子力学の建設者たちは驚きかつ困惑した。
相対性理論によって真空中の光より速く運動するものは存在しないはずなので、遠隔作用などあり得ないからだ。
このような思考実験を示して量子力学の確率解釈を否定しようとしたのはアインシュタインとボリス・ポドルスキー、それにネーサン・ローゼンである。
この実験は3人の頭文字をとって「EPRパラドックス」と呼ばれている。
だがアインシュタインらは結局この挑戦に敗れた。
というのも、後にこの量子力学的な遠隔作用「量子テレポーテーション」の存在が実験で確かめられたからだ。
現在では、この量子テレポーテーションを利用して量子暗号通信や量子コンピューターの研究開発が行われている。